Carbon生体吸収性材料:埋め込み型医療機への新たな機会

医師は、治癒をサポートするため、または場合により体内構造を再構築するために、デバイスを患者の体内に残すという苦境に直面します。しかし、永久的に埋め込んだままにしておくと、これらのデバイスは慢性炎症反応やストレスシールディングに加え、二次的な医療介入によるデバイス除去を必要とするようなその他の長期的な悪影響を引き起こす可能性があります。

手術用メッシュから軟組織の修復や治療まで、理想的な機器はその望まれる機能を実現し、適切なタイミングでシンプルに溶解することによって追加的に侵襲的手術が必要とされるリスクを低減します。

 

従来の生体吸収性材料

従来の「天然」生体吸収性材料には、自家移植片、同種移植片、異種移植片等があります。 自家移植片は入手に制限があり、同種移植片と異種移植片の両方は異物反応、炎症のリスクを伴い、全身免疫抑制を必要とします。従来の合成生体吸収性ポリマーは通常、溶融加工、射出成形、溶融紡糸によって医療機器に加工される硬質の半結晶性熱可塑性プラスチックです。柔軟性を実現する場合は、大抵、ポリエステル繊維から生地を作る必要があります。

従来の材料で作られる生体吸収性製品は患者の健康転帰を大幅に改善しますが、使用可能な医療機器用途の種類は、利用可能な材料とそれらの機械的特性によって制約を受けます。

 

Carbon生体吸収性材料

インプラントの機械的特性と生分解速度の組み合わせを最適化するという長年の課題に対処するため、Carbonは、CarbonのDigital Light Synthesis™(DLS™)技術により複雑な構造の実現に使用可能なエラストマー生体吸収性ポリマーの新シリーズを開発しています(図 1)。

図1:Carbonエラストマー生体吸収性ポリマーの新シリーズ

 

ソフトウエア主導の設計

Carbonソフトウエアでコンピューター的に設計されたラティスは、機器の機械的な力を調整し、輸送特性を向上させます。材料特性と構造を組み合わせ、制御することによって、生体吸収性埋め込み型機器に対する新たな見方と設計方法を可能とします。

 

材料とデザインの組み合わせ

以下の例は、Carbon DLS™技術と新しいCarbon生体吸収性エラストマー、ソフトウエア主導設計の組み合わせによって作られる、新たな医療や製品の多くの新たな機会を示しています(図2)。

 

図2:3Dプリント可能なCarbon生体吸収性エラストマーの幅広い潜在的用途

 

手術用メッシュ

生体吸収性やエラストマー、多孔性の構造を作り出すCarbon DLS™技術を活用することにより、手術用メッシュの新たな可能性が生まれます。本質的に非平面の構造を製作することで、外科医は手術室でのメッシュの手技を最小限に抑えながら、関連する手術部位にメッシュを配置できます。 メッシュが臨床的に適切な期間にわたって確実に留まり、メッシュの機械的特性を制御することで、患者の転帰を改善できます。

末梢神経導管

末梢神経への外傷性損傷は、感覚や運動性の喪失を引き起こす可能性があります。従来の修復アプローチの一つでは、非分解性エラストマー、コラーゲン製品、生体異物腸粘膜、生体吸収性ポリエステルなど様々な生体材料で作られた「カフ」内で切断された神経の端部同士を近接させます。Carbon DLS™技術と生体吸収性エラストマーを使用して、切断された神経の端部同士を軽度の圧縮力で固定し、栄養素とサイトカインを輸送しやすくすることによって神経の治癒を促進させる管状エラストマーラティスの製造ができるようになりました。

軟組織修復導管

腱の裂傷の治癒は、組織内の血管系の欠如(「White-white tears」と呼称)で妨げられることがよくあります。Carbon DLS™技術は、機械的方向性を制御したパッチを製造でき、必要なところに強度を加えつつ適切な方向での柔軟性を可能にします。更には、シグナル分子を材料に注入し吸収が進むと、治癒プロセスと腱の機械的強度の回復の両方をサポートし、細胞の漸増を助けます。

埋め込み型機器用ポケット

能動型医療機器(ペースメーカー、除細動器、神経刺激装置など)を埋め込むと、感染の問題が発生する可能性があります。 Carbon DLS™技術と、抗生物質を注入或いはコーティングした生体吸収性ポリマーを使用することにより、形状をカスタマイズした弾性ポーチを埋め込み時に製作したり、インプラントと一緒にパッケージ化することが可能です。

下大静脈フィルター

肺塞栓症のリスクがある患者の場合、下肢から流入する血栓を捕捉して肺に到達するのを防ぐために、下大静脈フィルターを配置することがよくあります。回収可能な金属フィルターがよく使用されますが、除去手術にはリスクが伴います。Carbon DLS™技術によるデジタル設計の可能性を考慮すると、所定の期間後にフィルターをステントに変更できるようにするための特殊な生体吸収性「ヒューズ」を製造することもできそうです。

放射線治療スペーサー

腫瘍切除の外科手術を施される患者は、その後、手術部位周辺の残存がん組織に対処するため、放射線治療を必要とする場合があります。手術中に、多孔性エラストマー生体吸収性ラティスを配置すると、周囲の傷つきやすい組織から腫瘍部位を物理的に分離できます。

止血装置/耳科用パッキング

耳鼻咽喉科の外科手術では、治癒中に気道の形状と完全性を維持する「パッキング」材料が必要となることがよくあります。Carbonエラストマー生体吸収性ポリマーは、伝達用に圧縮され、必要なスペースを埋めるために拡張できるため、治癒に効果があり、二次的な除去手術が不要になります。

ドラッグデリバリー(薬物伝達)用途

エラストマー生体吸収性材料を治療薬でコーティングするか、治療薬を内部に入れることにより、侵襲を最小限に抑えた手順で、限定されたスペースに治療を施すことができます。Carbonは、抗炎症薬の長期的な伝達、慢性疼痛緩和、化学療法、生殖療法、伝達システムの除去を必要とせずに組織の成長を促進する療法といった用途を期待しています。

 

特徴のある生体材料をビルディングブロックとして活用

Carbonは、健康転帰を改善する多くの新しい機器の製作のため、新たな生体吸収性エラストマーを利用することを目指しています。クリニックと市場への早期導入を促進するためにCarbonは、通常乳酸やグリコール酸、あるいはカプロラクトン等の環状モノマーといった、ポリエステルをベースとする現行の合成生体吸収性ポリエステルに使用されている、特徴が明らかなビルディングブロックを使用して材料を開発しました。このアプローチにより、Carbonは既に新材料を細胞毒性、刺激性、感作性、急性全身毒性、遺伝毒性、ガンマ線滅菌後の試験に合格させ、その生体適合性を実証しています。

全体として、デジタル設計機能と組み合わせたCarbonエラストマー生体吸収性ポリマーの新しいシリーズは、人間の健康と幸福を向上させるような新たな機器用途に多くの機会を提供します。具体的には、(i)二次的外科手術を不要とし、手術時間を短縮することによって全体的なコストと患者のリスクを低減し、(ii)救命装置の製品化に要する時間を短縮することが可能となります。Carbonの医療機器パートナーがこの材料を活用して、埋め込み型機器と治療法の新しい方向性をどのように描いていくのか楽しみにしています。